不定期連載ノベル・第6回

 こちらは当ブログ開設3周年記念企画・不定期連載ノベルっぽいものの第6回です。これまでの展開はカテゴリ「三周年記念企画」でご覧になれます。
 突如のバトルに、トビ襲来のアクシデント。これらを乗り越えたシュメッターリングとストラーフは、打ち寄せる波と橙色の夕照に、それぞれ何を思うのか……

 それでは、ご覧くださいませ。
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「ひななな-湘南神姫、かく戦えり-」第6回

 あれから数時間。既に日は傾き、周囲はそろそろ橙色すら帯び始めている。
 戦いをやめた2人の神姫は、今では浜辺に打ち寄せる波を、ただ見つめ続けていた。

 『さっきは邪険にして、すまなかった』沈黙を守っていたストラーフが、先に口を開く。
 相手に視線を合わせず、海を見詰めるばかりなのは、実のところ聊かの照れが混じっての事なのだが。
 『およ?』しかしながら聞き返すシュメッターリングの表情は、あくまで無邪気そのもの。
 どうやらストラーフの高密度半導体と複雑なプログラムで出来た心中に只今渦巻いている様々な感情は、幸いにしてこの相手には気取られていないようである。
 奇妙なところで鋭く、また別の奇妙な所で鈍い―――そんな相手は、ストラーフの知己の中にもいなくはない。そんな既視感を覚えながら、彼女は言葉を続けた。

 『キミには戦士として……いや、神姫として教えられた』これは、いまだ素直になれない彼女の純粋な気持ちである。
 それは、あのバトルを通じて唯の一度も攻撃を当てる事の出来なかったこの奇妙な神姫に対する、ストラーフなりの最大限の敬意の表し方でもあった。
 “経験は性能差を補う”……戦士として尤もな事だと思いつつ、実のところ言葉でしか理解し得なかった事を、今日彼女は確かな実感として学び得たからだった。
 しかしながら『そう……なのかな』と、その肝心の相手は首を傾げるばかり。その手ごたえのなさに内心苦笑しつつ、ストラーフはなお言葉を続ける。

 『それで、キミを見込んでひとつ頼みがある』その頼みとは、ストラーフなりに考えて出した結論。
 これからマスターに末永く仕え、幾多もの神姫バトルを戦い抜いていくであろう身として、ストラーフ自身が常日頃から感じ、そして今回も痛感させられたのはひとえに“経験不足”である。
 プリセットされた状態、自らの性能・戦闘能力にのみ頼りきった今までの戦い方では、いずれ限界が来る。遠からず、より強い誰かとの戦いで不覚を取る事だろう。
 そうならないためには、より実戦経験の豊富な神姫に教えを乞い、出来るだけ学び取る事……これに尽きると、ストラーフは考えたのだ。
 なんだかんだで碌に戦ってくれない同僚たちやその知己たちに比べれば、目の前の未知の神姫はまさしくその目的を果たし得る、ほぼ唯一の相手といってよかった。
 だからこそ、彼女はこう続ける。
 『……また、戦ってくれないか。今日のように』

 シュメッターリングは、答えない。ただその桜色の髪が、潮風に揺れるだけ。
 『どうなんだ、おい……?』ストラーフは思わず振り向き、問い詰めるように、答えを求めるように言葉を足す。
 桜色の髪の神姫が次の言葉を発したのは、それからやや後だった。

 『んー……すぐにって事なら、ちょっと難しいかな』それは、否定的な口調。
 『何故だ?その傷のせいか?』今までの軽いやりとりとは全く違う重たい返事に、ストラーフはなお問い掛けつつも当惑せざるを得ない。
 『それもあるよ。あたしは見ての通り、もうバトルからは引退したおんぼろ神姫だからね』
 『いや……もしキミがベストな状態だったなら、負けていたのは私の方だ』僅かな自嘲さえ感じられる相手の返事に、先程から海を見詰めていた間、数多のシミュレーションを重ねた結論をもって、ストラーフは食い下がる。
 『あの非凡な加速能力といい、キミにはまだ一線級の実力があると、私は見ている……せめて、あの能力だけでも伝授して貰えないだろうか』
 『あれはムリ、今のレギュレーションじゃ禁止だもん。もし習得出来ても、普通に使わせて貰えないと思うよ……それに、使い過ぎたらきっと、キミのマスターが悲しむ事になるから』
 シュメッターリングが、その風貌に似合わぬ真剣な眼差しでそう言った時、ストラーフはようやく得心した。何故、自らのデータバンクに、相手のアビリティが一切登録されていなかったのか……その疑問の答えに。
 2041年現在ではひとまずの落ち着きを見せている神姫市場も、その昔はもっと混沌としており、今ではレギュレーション違反、もしくは違法とされている様々なプログラムや武装、アビリティが数多く存在していたという……それは同僚の白い神姫・アーンヴァル型が先日していた“いつもの他愛無い話”の中で、唯一ストラーフが興味を感じた話題である。
 “そういう神姫がいるのなら、是非戦ってみたい”その時彼女はそう思ったものだが、まさしく今日、その希望ははからずも叶えられる形となったのだ。
 そして、かの言い方からすれば、このシュメッターリングは過去のバトルで相当なムチャをしたのだろう。それこそ、樹脂で出来たその身体が焼け焦げ、砕け散りかねない程の。
 もし、彼女の言葉がその結果から出たものであるならば……自らのマスターの悲しむ顔を思い浮かべたその時、ストラーフはもはやそれ以上、教えを乞い求める事など出来なくなっていた。

 そして、ストラーフはこの時ようやく思い至った。このシュメッターリングもまた、本当は自分と同じく“戦いたくて仕方がない神姫”だったのではなかったかと。
 レギュレーションが変わったから、型落ちの旧式だから。そういった理由で華やかな神姫バトルの表舞台から一方的に退かされ、傷だらけのパーツが朽ち果てるその日まで、ひっそりと市井で暮らすしかないその運命。
 “武装神姫”としては、それはさぞ不本意なものだった事だろう。
 だからこそ、最新型の“現役”武装神姫である自分に、最初からかなわぬと知りつつも戦いを挑み、ボロボロのボディからその能力のすべてを搾り出して、ほぼ対等にまで渡り合ってみせたのだ。
 まさに“意地”と言うべきか。

 『まあ、そんなこんなでね。すぐにと約束するのは、ちょっと難しいよ。ごめんね』苦笑を浮かべる、そのシュメッターリングに。
 『いや、いいんだ。キミにも都合があるのだろうからな。悪かった』だからこそ、ストラーフはこう返す。
 『んーん、悪いなんて事ないよ。ほんと、楽しかったから!』やっと見せてくれた、その笑顔。
 『……ああ、私もだ』少しだけ、ストラーフの表情が緩ぶ。
 それはまぎれもなく、互いの“意地”が伝わり合った瞬間だった。

 しかし、まさにその時だった。2人それぞれのフレームから、それぞれのアラーム音が響いたのは。
 『タイムリミット、か』『そうみたい、だね……』
 どことなくしょんぼりとしたような面持ちで、2人は顔を見合わせる。

 ぴょんっ、と岩場のさらに上。飛び上がったシュメッターリングは、そこからストラーフに声を掛けた。
 『今の話だけど!ここはあたしの庭みたいなものだから、ここでならまた会えるかも……だから、その約束はいつか、ここで果たすって事にしよう。それでいいかな?』
 『ああ。その時を待っている』岩場の下から、ストラーフが返す。
 『ん。それじゃ、またね!』

 こうして桜色の髪の神姫が姿を消してから、ストラーフはある事に気付き、困惑げに呟く。
 『……しまった。名前、聞きそびれた』

 陽は、もう落ちていた。

【おことわり】
 この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
 また、この物語は「武装神姫」シリーズ関係の二次創作物であり、同シリーズの公式設定等を基にしてはおりますが、作者の解釈により若干の差異の生じる可能性がありえます。
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プロフィール

翠騎

Author:翠騎
日々を趣味の探求に生きる旦那芸の人。

神姫オーナーとしてはパートナーのシュメッターリング3rd改「ナナ」を中心に、広く浅くやっております…といいますか、むしろナナの方が知られていたり(^^;
(その他の神姫たちはこちら
最近は30数年ぶりにガンプラ熱再燃、旧ザクアメイジング作ったりとか妖怪グレイズ置いてけだったりとか。
あと、ミニ四駆も始めたてほやほや。

もし何かございましたらこちらまで、お気軽にどうぞ!
(スパム回避のため画像になっておりますので、ご注意くださいませ)

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